毎年、南伊豆の弓ヶ浜では12月1日が高足ガニ漁の解禁日となっています。
大人が2人入れそうな特大の網カゴの中にエサのマグロ頭を2~3個放り込み水深150mの海底に沈めます。網カゴは20基くらいありロープでつながっています。
とにかく仕掛けが大がかりなので海底に下ろすときも引き上げるときも力仕事で船長他2名の海仕事に手慣れた力のある作業員が必要です。
弓ヶ浜の波止場でカゴ網を準備して船に積み込みます。仕掛けを海に落とすときは数十キロあるオモリを何個もつけて一気に海底まで落としますので入念に、慎重に、何度も点検しながら積み込みます。
もし、人間がロープにからまって海に落ちたら、一気に海底まで連れて行かれ、まず助からないでしょう、少しのミスも許されません。
エサは冷凍マグロの頭を使います。これに電気ドリルで穴を開け針金を通してカゴ網にぶら下げます。エビでタイを釣るように高価なエサが必要なのです。
南伊豆で12月といえば西風が吹き荒れる時期で、この高足ガニ漁も大西の中、死ぬほど揺られながら河津沖のポイントまで1時間走ります。
私 は一応半人前の漁師で自らも1.7トンの漁船の船長ですが、この揺れには不覚にも船酔いしてしまった苦い経験があります。3トンある大きな高足ガニ漁船が3m以上ある大波にもまれてハンパない揺れです。千鳥足で甲板にぼーっと立っていたらカゴ網を落とすときに仲間から怒鳴られました。
さて、荒れ狂うポイントに突いたら、全員が船長の号令で仕掛けを落とす体勢になり、一気に落とします。こんな大きなカゴを海底150mの狙った場所に落とすには、風と潮を操船を寸分狂わず読んで命令を下す必要があります。
西風は10m以上吹き荒れ、潮は黒潮支流でゴーゴー川のように流れ、波はスパンカーよりも高く、漁船は3トン以上の巨大で、魚探とGPSをにらみつけながら、船員に的確な指示を出す・・・大間のマグロ漁のような壮絶な戦場です。
高足ガニの仕掛けは大がかりなので打ち直しが不可能です、だから仕掛けが海底150mの狙ったポイントに入らなければ、揚がってくる高足ガニの漁も激減します。
船長としての価値がこの一瞬で決まります。
伊豆半島には高足ガニを食べさせる飲食店がたくさんありますが、けっこう高いです。上の写真の小サイズ(1kg級)の高足ガニを飲食店で食べると16,000円くらいです。3kg級の大サイズだと30,000円くらいだそうです。ちょっと手が出ません。
それに、昨年までは、弓ヶ浜の伊豆漁協直売所で活き高足ガニをかなり安く(キロ4,000円くらい)売っていましたが、これも今年から販売をやめてしまい、一般の人が獲れたての新鮮な高足ガニを安く買うルートがなくなってしまいました。
これだけ飲食店で高いと、きっと消費される高足ガニも減っていくでしょう。
私は近所が高足ガニ漁師なのでいつも漁師価格で買っていますが、そのうち高足ガニを食べることができるのは高級料亭と漁師だけ・・・ということになりそうです。
でもそうなると、高足ガニ漁も廃業・・・ということになるのかなあ。
幻の高足ガニになる日もそう遠くない感じです。