南伊豆の美しい海辺(弓ヶ浜)の前で貸別荘を営んでいると、たまに山が恋しくなります。
本業の南伊豆の「海遊び」はかなり幅広くガイドしてきましたが、「山遊び」といえば、河津七滝でのアマゴ渓流釣り、天城越えサイクリング、稲取高原のワラビ&ゼンマイ採り、くらいしか経験がありません。
私が経営する海辺コテージのお客さんにも、いつか伊豆半島誕生の痕跡が遺る天城の山々もガイドできるようになりたいなあ~と思っていました。
そんな思いを募らせているときに、2016年8月11日「山の日」に伊豆新聞で掲載された特集記事「天城の巨木」という一面記事が目に飛び込んで来ました。伊豆半島の巨木・古木たちを巡る写真取材レポートでした。
「おお~、これなんだよね、これやってみたいんだよね~、この紙面で紹介されている天城山の巨木たちに逢いに行こう、そしてコテージに泊まってくれたお客さんにもガイドしてあげよう!」と決心し、私の天城山系の巨木巡りが始まりました。
まず、ざっくりと、天城の巨木たちに出会える2つの登山道ルート(トレッキング・コース)を紹介しておきます。
一つは、伊豆半島を南北に分ける長い尾根ルートで、伊豆半島の最高峰万三郎岳を中心とした東天城エリアの全長約20kmの天城縦走路ルート(上記マップ)です。
ここは、よく整備された登山コースで、案内標もしっかりしているし、交通アクセスも便利で、トレッキングやハイキングで人気の健脚向きコースです。
もう一つは、天城峠バス停から修善寺虹の里までの西天城エリアの全長約43kmの尾根を連ねる伊豆山稜線歩道ルートです(上記マップ)。
天城峠から仁科峠までは伊豆半島を尾根ルートで横断し、仁科峠から戸田峠までは駿河湾沿いに北上する尾根ルートで、かなり長いトレッキング・コースです。
伊豆が半島になってからできた各火山は標高の高い場所を場所をつくりだし、多くの雨をもたらしてきました。だから、天城縦走路も伊豆山稜線歩道も、アセビ、ブナ、ヒメシャラ、シャクナゲなどの原生林が多く巨木、古木が林立する場所となったのです。
さて、今回おすすめしたいのは登山客がほとんどいない伊豆山稜線歩道です。天城縦走路に比べて伊豆山稜線歩道は交通アクセス(電車やバスなど)も極端に悪い(少ない)ため、集合&解散に不便なコースで、登山客も極めて少いのです。
特に、伊豆山稜線歩道の最奥部から分け入った手引頭、長沢頭は、20年前まで笹に一面覆われていて、前人未踏のスポットであり、100万年前の伊豆半島誕生の古代にさまよい込んだような、幽玄で神秘的な巨木群生地を霊感できるスポットになっています。
伊豆半島ジオパーク的には、海底火山が100万年前に本州にぶつかり伊豆半島になったあとも火山噴火が続き、いくつもの大きな火山をつくりだしました。
約20万年前までに天城火山、猫越火山、達磨火山などの伊豆半島の稜線をつくる山々がつくられ、そのため仁科峠から手引頭への遊歩道は猫越火山の上を歩いて行くことになります。
つまり、流れ出した溶岩がつくったなだらかな斜面の上を歩くので、伊豆半島の稜線の山々は比較的アップダウンが少なく、標高1,000mを超えるわりには体力的に手軽に登山が楽しめるコースとなっています。
伊豆山稜線歩道にはそんな伊豆半島誕生を霊感できるスポットが多く、最奥部の「手引頭」「長沢頭」は数十万年前の精霊たちの聲が聴こえてくるような幽玄な場所で、私の天城山系トレッキングの一押しスポットです。
ただし、歩道から分け入り、藪漕ぎする場所もあるので、登山初心者や一人登山の場合は必ず天城自然ガイドクラブ(電話:0558-85-1056)のようなプロのガイドさんに同行を要請してください。
マンツーマンの個人ガイド料金で15,000円程度です。
伊豆山稜線歩道は天城縦走路のように標識も整備されていなく、間違いそうな枝道も多く、霧がかかったら1m先も見えなくなり、標高1,000m尾根伝いを歩くので、軽登山用の安全装備と知識と経験が必要です。
ノルディックウォーキングの延長のような服装や装備や心構えで天城トレッキングをしてはいけません。
例えば、登山前の少なくとも1週間前から天気図の流れを観察し、当日の天気図を正確に予測できることが必要です。これを怠ると命に関わる遭難事故につながります。
また、登山の常識として、100m標高が上がる毎に0.6℃気温は低くなります。よって伊豆山稜線歩道の気温は平地より最低でも6度低く、風が吹けばそれ以上に体感温度は下がります。
また、どんなに快晴で出発しても、稜線で霧がかかってきたら1m先も見えなくなりますし、予期せぬ雨にも遭遇します。天気図で強風、雨、雪、霧などの発生が予想される場合には、迷わず登山計画を延期してください。
そして、これは非常に重要なことですが、伊豆山稜線歩道コース全域で、ほとんど携帯電話は圏外となり、つながりません。なので登山計画書は必ず最寄りの交番に提出して山に入ってください。
決して標高1000mの天城の山々を舐めてはいけません。そのためにも、最初はプロ・ガイドと同行して天城登山の初歩知識を学びながら、徐々に天城トレッキング技術を向上させることをおすすめいたします。
天城のプロ・ガイドによるマンツーマンの個人ガイド料金は15,000円程度で、グループで行けばもっと割安となるでしょう。
さて、私のコテージに宿泊された方には、オプションの有料ツアーとなりますが、お天気と相談しながらこの神秘的な伊豆山稜線歩道の最奥部の「手引頭」&「長沢頭」ピストン(往復)トレッキング・ツアーを同行ガイドさせて頂きます。
私の伊豆山稜線歩道(手引頭&長沢頭)トレッキング・ツアーのおすすめ時期は、新緑の5月中旬(アセビ満開、トウゴクミツバ満開)、5月下旬(アマギシャクナゲ満開)、紅葉の11月下旬です。
ガイドご希望の方は、弓ヶ浜へ30mのコテージ伊豆.comのホームページをご参照の上、宿泊予約申込みフォームの最後のコメント記入欄に「手引頭トレッキングツアー希望」と明記して、フォームを送信してください。
ツアー料金は、人数、季節、によって異なりますので、フォーム受信後にコテージ空室状況やお天気などと相談した上で私からご提案させて頂きます。
それでは、これから、私が2016年12月下旬と2017年5月下旬に伊豆山稜線歩道(手引頭&長沢頭)を歩いた幻想的な巨木群生地巡りで撮影した写真とともに紹介していきます。
まずは、弓ヶ浜前のコテージから車移動で90分でスタート地点の仁科峠駐車場に到着します。弓ヶ浜から蛇石峠を越え松崎に抜け宇久須南交差点から県道410で曲がりくねった宇久須川を登り、「牧場の家」がある西天城高原に出て、仁科峠に到着。
ここで注意することは、12月下旬頃から仁科峠周辺の410道路では早朝凍結が始まるので、前日雨などの場合は路面凍結に十分注意してドライブしてください。
トレッキング出発点の仁科峠駐車場で標高913mありますので、これから始まる登山の気温やお天気をここで最終予測しながら最後の装備品チェックをしてください。
伊豆山稜線歩道コースは仁科峠駐車場を貫いていますので、天城峠方面に向かって東に登山開始します。
駐車場からクマザサで一面覆われた斜面の中にある歩道を上るとナベ岩(標高940m)に到着。この岩の上に立つと、西伊豆の大パノラマviewに圧倒されます。
伊豆山稜線歩道を仁科峠から天城峠に向かって東向きに歩くと、背中にいつも富士山が見えます。秋の透き通った青い空の向こうに、標高1000mから見えるクッキリ富士山は感動ものです。これだけでもこのコースを歩く価値があると思います。
ナベ岩を下ると、次は標高993mの後藤山で、ここの上りが全行程で一番きつい上りとなります。
後藤山の頂上から稜線トレッキングすること33分で猫越岳の展望台に到着、ここで東西南北の絶景を堪能しながら水飲み休憩します。
御前崎の先端、白くかぶった南アルプスの山々、雲見の烏帽子山、、、などが見えたのが感動でした。
展望台の隣には、猫越岳の山頂下の池があり、12月下旬時には全面凍結していましたが、5月下旬に登ったときには接水面の木々にバレーボール大の巨大な白いモリアオガエルの卵塊や池中一杯のオタマジャクシを発見しました。
昔は、スギゴケが一面にあったそうですが、今はそれに替わってヒルムシロが池全体を覆っています。
全行程で一番標高の高い地点、標高1034mの猫越岳。猫越火山は数十万年前には噴火を終えており、そのかつての山頂(猫越岳)は現在よりも標高が高く、火口があったと考えられています。
猫越岳からは稜線を下りながら、水呑頭(標高1010m)、猫越峠(標高969m)を通過します。水呑頭へ向かう途中はアセビ群生地の長いドームをくぐり抜け、水呑頭付近から神秘的な巨木ブナの群生が出現してきます。
猫越峠は天城有数のマメザクラ群生地ですが、多くの古木が倒れたり枯れたりで廃墟が続いている場所もあり、絶滅の危機に瀕しています。
平地で河津桜が終わり、ソメイヨシノが終わる頃、廃墟の周りの自生のマメザクラが咲き出し見頃を迎えます。
猫越峠では、伊豆山稜線歩道に他の歩道も交差していて、迷い道にならないように十分気をつけて登山してください。
猫越峠から手引頭入り口に向かう途中にはブナ巨木が群生していて、古代の森の様相を呈しています。また、ヒメシャラ巨木も点在していて伊豆半島No.1にも遭遇します。
巨木「横手ブナ」の地点から分け入り、藪漕ぎすると、伊豆半島No.1のトウゴクミツバ「猫越のオオミツバ」に出合います。
根元から4本の太い幹に分かれ、その1本の周囲は85cmあり、まるで数匹の大蛇のようです。5月中旬に赤紫の満開となります。
横手ブナから6分歩くと、いよいよ手引頭への入り口になる巨木ブナ(二郎ブナと呼ぶ人もいるが)に到達します。
さて、この二郎ブナ地点で伊豆山稜線歩道から分け入り、手引頭へ向けて尾根伝いに登ります。このルートにはブナ巨木の純林、ヒメシャラ巨木、アセビ巨木、が群生しており、まさに古代の幽玄な世界に迷い込んだ風景に圧倒されます。
二郎ブナから稜線を登ること15分で手引頭(標高1014m)に到達します。ここには、天城随一のブナ巨木「大ブナ」があります。幹周りは5.4mで枝の太さにもド肝を抜かれます。
私は、大ブナ(推定樹齢500年)とご対面するときには必ず天津祝詞を奏上して、再訪のご挨拶をさせて頂きます。このとき、80万年前の精霊たちの聲が聴こえてきます。
とても神聖なスピリチュアルな体験で、往復7時間のトレッキングの意義がここにあります。
大ブナの周辺でランチタイム休憩です。
手引頭の大ブナの南東側には、県下随一のアマギシャクナゲ(天城山固有種)の古木があり、5月下旬には下の写真ように薄ピンク色の満開で、深山を美しく彩っています。
このアマギシャクナゲは4本株立ちの木で、幹回りは1本が75cm~57cm、樹高は8mあり、天城山系最大級の古木です。
手引頭から長沢頭に向かう途中には、アセビの巨木が群生していて、怪しく枝をくねらせ太古の森に迷い込んだような風景に圧倒されてします。
アセビの巨木群が大きく曲がりくねった枝を広げて幻想的な世界が広がっています。
アセビ巨木群生地からさらに奥に進むと、視界が急に明るくなり、眼前には幽玄な巨大樹たちの墓場が広がります。ブナやヤマグルマの 巨木が朽ちた墓場を進むと長沢頭に到達します。
長沢頭の尾根には 巨大ブナの朽ちた墓場の稜線が続き、いったいここで何が起きたんだろうか?と思いをはせながら眼下の展望を楽しみました。
ここ長沢頭が今回の行程の最奥部でUターン地点となり、ここから来た道を戻って仁科峠まで帰ります。
さて、伊豆山稜線歩道、仁科峠-手引頭・長沢頭ピストン登山、往復7時間トレッキング、いかがでしたか?
西天城の豊かな自然の象徴である巨木たちの言霊が伝わりましたか?
80万年前の伊豆半島誕生の古代精霊たちの聲が聴こえましたか?
百聞は一見に如かず、興味があれば私と一緒に登りましょう、いつでもご案内いたします。
弓ヶ浜へ30mのコテージ伊豆.com、オーナー森本より。
注1)本文記事の『手引頭&長沢頭の巨木巡りトレッキングツアー』ご希望の方は、私のコテージのホームページの宿泊予約フォームから、お申し込みください。フォームの最後のコメント欄に「手引頭&長沢頭の巨木巡りトレッキングツアー希望」とご記入ください。
注2)ご宿泊されない方へのガイドは実施しておりませんので何卒ご容赦ください。
注3)最低限の登山の服装や持ち物については各自で責任をもって準備(購入)してください。当日になっても、最低限の準備が無い方の登山ガイドは危険なのでお断りしています。
※)下記は初冬12月の天城登山を想定した必須項目となりますので参考にしてください。
必須1:シューズ、やわらかめで防水タイプ、ミドルカットまたはローカット。天城登山(トレッキング)なら足が自由に動かせるローカットで十分OKですが、これから登山を趣味にしていくつもりならミドルカットをおすすめします。ハイカットは2,000m級以上の登山に適しています。靴は最も重要なアイテムです。私はミドルカットの「ニューバランス MO703HD1(17,000円)」を愛用しています。
必須2:パンツ、風を通しにくく、裏地に保温性があるもの。間違ってもジーンズで登山してはいけません。コットンは吸水率が高く、水分を溜め込むので、体を冷やし疲労させます。私は、「ファイントラック ソラノパンツ(17,000円)」を愛用しています。
必須3:中厚フリース、防寒着(中間保温着)としてザックに入れておきます。私は、「ジャックウルフスキン デナリハイロフトジャケット(12,000円)」を愛用しています。
必須4:アウター、初冬12月の天城登山ならウールシャツ(肌着)の上にウィンドブレーカを重ね着すればOKです。防風、透湿の機能があるウィンドブレーカーが最適です。私は、「モンベル U.L.ストレッチウインド ジャケット Men’s(6,500円)」を愛用しています。
必須5:雨具、きちんとした防水フィルムの入っているもの。風雨の中で人間は数時間で低体温症となり死に至ります。非常事態への備えでもあり、防水、防風、防寒、透湿の機能が必要で、コンビニの雨ガッパではダメです。私は、「ミズノ ベルグテックEXストームセーバーVレインスーツ(16,000円)」を愛用しています。
必須6:帽子、アクリル製またはウール製で耳が隠れるタイプ。私は、「バーグハウスMerino Wool 250 Reversible Beanie(4,400円)」を愛用しています。
必須7:ザック、20L後半の大きさ。私は、「カリマー Lancs 28(18,000円)」を愛用しています。
以上7つ道具は、12月天城登山に最低限の必須項目ですが、一般的に登山では速乾性、保温性、防水性、防風性、透湿性といった機能をもった服装を「重ね着」(レイヤリング)するのが大原則です。
上記に類する所持品の準備がない方の冬の天城ガイドは、生命の危険があるため、お断りする場合がありますのでご了承ください。
さらに、下記リストは「あれば快適なもの」で、購入されることをおすすめいたします。
おすすめ1:ウールシャツ(肌着)、保温性と汗処理を両立したウール製が快適。高低差が大きいコースや汗かきの人の場合は2枚あると安心です。私は、「バーグハウス Merino wool 200 tight(5,300円)」を愛用しています。
おすすめ2:靴下、ウール混合で足が蒸れないモノ、私は、「バーグハウス Dralon Wool Short Socks(700円)」を愛用しています。
おすすめ3:下着パンツ、きちんと汗を吸う素材のもの、私は、「CW-X スポーツショーツ(1,700円)」を愛用しています。
おすすめ4:グローブ、防寒タイプで暖かい裏地があるもの、私は、「アクシーズクイン ゴアテックス グリップグローブ(11,000円)」を愛用しています。
おすすめ5:スパッツ、害虫よけで、私は、「モンベル GORE-TEXライトスパッツショートMサイズ(4,000円)」を愛用しています。
おすすめ6:300mlくらいの小さな保温水筒、冬山でランチの時に暖かいお茶があると心と体が温まります。
以上が、登山経験豊富な熟練者やプロガイドと一緒に天城トレッキングする場合に、「初心者のあなた」が最初に購入するべき最低限の装備です。
それ以外にも、ヘッドランプ、地図、コンパス、非常食、救急セットなども必要になってきますが、それは同行するプロガイドの所持品をよ~く観察して、たくさん質問して、自分で学んで行ってください。
場所、時期、天候、人数、登山計画、立場、、、によって所持品は変わりますし、道迷い、遭難といった非常事態への備えも必要となってくるでしょう。
一つ一つ、焦らずに、確実に、体験しながら学習していってください。
それが山の楽しみですから。